明日、ステージを降りるあなたへ

 
ほとんど恋みたいなものだったと思う。
ちっとも一途なオタクじゃないくせに、こんなことを言うのはおかしな話だと思うのだけれども。
でもあなたは、沢山いる「好きなアイドル」の中でもたぶん、私にとってはいちばん恋に近いところにいた人だったんだ。
 
 
尾関梨香ちゃん。
私より一つ年下、今年で25歳。
小柄で、花が咲くように朗らかに笑う、本当に可愛い女の子。
 
明日、あなたは櫻坂46を卒業する。
そして、芸能界という表舞台から姿を消す。
未だに信じられないけど、そんな現実が待っている。
 
本当は、尾関梨香ちゃんを推すようになった経緯や、もともと欅坂46の音楽やパフォーマンスが狂おしいほどに大好きだったこと、「こんな地獄みたいなグループ好きになっても辛いだけだ」と思って目を背け続けていたこと、己の嗜好には抗えず黒い羊のMVを見たその日から歌番組披露を全て録画して食い入るように見続けていたこと、改名の発表方法に辟易としたこと、全部全部書きたいけど、そこまでの時間も気力もないので割愛する。いやほとんど書いてるけど。
 
「もう諦めて認めよう。私はこの子が好きだ」と腹を括って流れ弾のミーグリに申し込んだあの日から1年弱、やきもきすることの方が多かった。
何でこんなにも頑張っている子が、こんなにも可愛い子が、日の目を見れないんだ、どうして。そんなことばかり毎日思っていた気がする。
 
私は自分の好きな子が目に見えて「売れている」状態が好きだ。
Hey!Say!JUMPの人気が明らかに右肩上がりになった2015年も、SixTONESYouTubeアーティストプロモのキャンペーンに選ばれた2018年も、楽しくてしょうがなかった。私は売れている推しを見るのが好きなのだ。
このスタンスが女子ドルのオタクをするにあたり向いていないことははなから分かっていた。選抜制度があるグループにおいて、推しが選抜にいないなんて私には耐えられない。
だから私は沢山CDを買った。「私は尾関梨香のためにお金を払っています」という意思表示をするのに手っ取り早い方法だったから、沢山ミーグリに申し込んだ。私1人の力なんてたかが知れているのに、少しでも数字に貢献したくて、選抜に入る推しが見たくて、ミーグリのために費やしたCDでいっぱいになった段ボールたちは今、これを書いている私の背後で静かに鎮座している。あの段ボールの山は、私のエゴの塊だ。
 
 
私はもともとファンサ厨でも接触厨でも認知厨でもないので、握手会やミーグリに対して強い執着はない。
しかし前述の通り、数字のためだけにミーグリに金を注ぎ込んだ私には、結果としてミーグリの券が沢山手に入る(そりゃそう)。
 
初めて尾関と話した時は緊張で手が震えて、声も震えていた。だって、画面の向こうには私のために耳を傾けてくれる大好きな人がいるのだ。
当時私は休職明け直後だったので、「休養から帰ってきたおぜちゃんのように私も頑張るね」という主旨のことを伝えた気がする。
尾関は半泣きで話す私に「一緒に、ちょっとずつ頑張ろう」と微笑んでくれた。
こんなただのオタクの端くれにすら、彼女は欲しい言葉をくれるのだ。
 
私にとっては副次的に得られたミーグリの場で、何倍も、何十倍もおぜちゃんのことが好きになった。
いつからか毎回かけてくれるようになった「いつもありがとう」という言葉に、勝手に救われていた。お礼を言うべきなのはこちらなのにね。
 
 
尾関梨香ちゃん。
わたしがこの1年をかけて愛した、世界でいちばん可愛い女の子のアイドル。
明日、あなたは櫻坂46を卒業して、世界でいちばん可愛い普通の女の子になる。
 
あなたが表舞台を降りた後も世界は止まってくれない。私は昨日までと変わらない日常を過ごすだろう。きっと何も変わらない。悲しいほどに。
何も変わらない日常の中で、だんだんと、でも確実に、「あなたのいない日常」を嫌でも自覚させられるんだろうと思う、生活の端々で。
仕事に飽きて手に取ったスマホで櫻坂のトークアプリを開いて、尾関のアイコンがないことに気づいてすっと指先が冷えることも、メンバーの更新したブログを見て、尾関が最後に更新したブログはなんだっけなと見に行って、記事がないことに気づいて静かにブラウザを閉じることも、今から想像して心の準備をしている。現実では、想像の何倍も傷つくんだろうけど。
きっとこの先ずっとそうやって、ちいさなところであなたがいない日常を痛感して、ちいさく傷つき続けるんだろうなと思う。
それでいい、悲しいけどそれでいい。
そうやって傷つくことで、何度でも心に刻みつけたい。自分の日常の中にあなたが存在したことを、尾関梨香というアイドルがこの世に存在したことを、忘れないでいたい。
 
ジャニーズの自担が歌っている曲に、こんな歌詞がある。
「終わりがあるのなら 始まらなきゃ良かったなんて」
尾関の卒業発表の日からずっと、この曲を聞くたびにこの歌詞が頭に残る。
こんなに悲しいなら、好きになりたくなかった。
こんなにもお別れが辛いなら、最初から知らないままでいた方が良かった。
そう思ったことが一度もないと言えば嘘になる。
でも、それでもやっぱり、あなたを好きになったこの1年間のことを思うと、「好きになりたくなかった」「知りたくなかった」なんて私には到底言えない。
あなたに出会えたことを、あなたを好きになれたことを、なかったことになんてしたくない。
 
 
尾関梨香ちゃん、
あなたに恋できたのはあまりにも短い時間だったけど、あなたに出会えて、あなたを好きになれて、本当に幸せでした。
こんなに幸せにしてもらったのに、何にも返せなくてごめんね。
きっと沢山、本当に本当に沢山つらい思いをしたと思います。それなのに、ここまで頑張ってくれてありがとう。頑張らせてしまってごめんなさい。でも、それ以上に、心からありがとう。
 
これからは、あなたの幸せのためだけに生きてください。
のんびりやりたいことをやって、好きなものを食べて、朗らかに笑っていてください。
ただただ、好きなことをして、好きな人に囲まれて、幸せに暮らしていてください。
家族でも、友達でもなんでもない赤の他人がこんなことを願うのはおかしな話だし、ちょっと気持ち悪いと思う。ごめんね。オタクとして最後のエゴだから、どうか許してほしい。
あなたの幸せは、私の幸せなんです。
 
尾関梨香ちゃん。
私がこの1年をかけて恋をした、世界でいちばん可愛い女の子。
最後にもう一度だけ言わせてください。
あなたを好きになれて、私は本当に幸せでした。
本当に、本当にありがとう。
 
明日も、明後日も、この先もずっと、世界のどこかであなたが笑っていますように。

 

 

 
愛をこめて 
2022.9.10.